理工学部建築学科の事例報告
プロジェクトは、内向きから外に開かれたものへと変化
最初に共創事例の紹介?報告をしたのは、本学理工学部建築学科の谷田真准教授。研究室には建築学科3、4年生と修士課程1、2年までの20数名が在籍。長期間かつ大所帯の研究室で、学生たちはものづくり?ことづくりを通してフルスケール思考や実社会とつながる経験をしています。また、「小さな仕掛け製作所」というチームで卒業生が社会人となりまた戻ってくるサイクルをつくり、OB?OGと現役学生をつなぐ活動もしています。
研究室でのこれまでの取り組みとして、階段の機能をデザインで拡張する「階段リビング」、モウソウチクという竹で「場」を作り、子どもたちが誘い込まれて中に入る仕掛け「巣づくろい」、家具の形が変化しコミュニケーションを生む「ころん?ごろん」、人が中に入れるモバイル型ブックシェルフ「ブックワーム」など、いくつかの作品を紹介しました。
当初は研究室内に閉じた活動が多かったものの、徐々に研究室の外を巻き込むようになり、今年度から手がけている団地に私設図書館や私設公民館をつくるプロジェクトでは、外部の方が参画し、深く関わるプロジェクトになってきていることを報告していただきました。
ヤマラボの事例報告
異なる立場のメンバーが試行錯誤し、学生のやりたいを叶える学生が地域のリアルにふれ、地域と学生が、共に考え?実践する試み
次の登壇者は、ヤマラボの宮原知沙氏と井久保詩子氏。ヤマラボとは三重県と奈良県の境にある人口3000人の奈良県山添村をフィールドにした共創プログラム。本学学生が正課外活動として年間10名ほど参加しています。
ヤマラボが大事にしているのは、課題を探しにいくのではなく学生にニュートラルに山添村を知ってもらうこと、漠然とした「地域」という言葉の解像度を上げること、学生自身のやりたいことから生まれるプロジェクトを考えることの3点。ヤマラボ2期目となる2023年度は、地域の方からプロジェクトテーマを募集し、テーマの中で学生のやりたいことを掛け合わせたプロジェクトを実施する形にアレンジしました。
2023年度のプロジェクトで学生と共に活動したのは、山添村を拠点に活動する女性グループが運営する地域交流拠点「Soyel」の井久保詩子氏。学生を地元の生産者をつなぎ、地元のお祭りにて「一日名城大カフェ」を実施。当日は来場者が1000人を超える大盛況だったとか。奈良県、山添村、名城大学とさまざまな方の想いと力添えで実現するヤマラボは、立場の違うメンバーが試行錯誤をしながら進めているところがポイントということでした。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズの事例報告
まちに愛されるクラブを目指し、共創とイノベーションを起こす
3番目の登壇者は、名古屋ダイヤモンドドルフィンズの園部祐大氏。ドルフィンズは日本のプロバスケットボール「B.LEAGUE」に所属。「誰もが誇れる街?名古屋のシンボルとして、ドルフィンズが想起される世界を目指す」というビジョンを掲げています。
ドルフィンズと名城大学は2017年から共創をスタート。2020年には「プロスポーツビジネス研究会」を立ち上げ、連携協力締結を結んでいます。これまでの取り組みとして、名古屋市が主催するマルシェでのSDGsのワークショップ出店、円頓寺商店街の活性化とドルフィンズファン拡大をテーマに学生が企画した「おつかいクエスト」の実施、文化祭イベントや観戦者倍増大作戦、名城大学祭でドルフィンズの魅力をPRするプロジェクトの実施などを紹介しました。
プロスポーツは権利ビジネスでありエンタメ領域のビジネスですが、今後は社会課題解決といったコミュニティビジネスも合わせて展開していくことが求められているといいます。愛されて勝つクラブ、まちになくてはならないクラブになるというビジョン達成のため、本学学生と組んで共創とイノベーションを起こし続けていきたいとお話しいただきました。
共創事例を深堀りするパネルディスカッション
共創事例の紹介?報告の後は、社会連携センターの社会連携アドバイザー白川陽一氏の進行のもと、パネルディスカッションを開催。共創プロジェクトを進める過程でどんなプロセスがあったのかなど、共創事例を深堀りしました。
白川:谷田先生が研究活動をしていく中で起こったフェーズの移行についてお聞かせください。
谷田:実は次のフェーズを考えて取り組んだことはありません。毎回課題に対して私たちが持っているスキルでなんとかしたいと思い、計画しているところと無計画なところを行き来し、たまたまつながった方、たまたま得たヒントを次の課題に対して試していく、実験していく。その繰り返しの中で、徐々に新しいフェーズに移行してきたのかなと思います。また、私たちは実際にものづくりをしているので、必然的にいろんな分野の方や技術を持っている方とつながるので、それが新しい発見、気づきになっています。
白川:ヤマラボの取り組みは、いろいろなプロセスを経て進化してきたと思いますが、どうフェーズが移行し、今はどんなフェーズにあるのでしょうか?
宮原:進化するというより変化してきたのだと思います。活動の度に振り返りながら、もっとこうなるといいなということをぽろっとこぼせるようなコミュニケーションがありました。奈良県の方、山添村の方、学生といろいろな立場の人がいる中で、お互いにリスペクトしながら安心安全に発言できる関係性が何より大事だと思っています。
白川:なるほど。基調講演で話題に上がった情報の交換をしてトーンを揃えていくようなコミュニケーションですね。
宮原:そうです。最初からは揃わないと思いますが、プロセスの中でぶつかったりもしながら山添村の方々が井久保さんを中心に、学生に本当に寄り添ってくださいました。
井久保:私自身が地元でフリーペーパーを立ち上げ地域の方とつながってきて、そこで得たご縁を学生につないだところ、とても喜んでくれて同じように共感してくれたり、私の感じ方とはまた違った新しい受け取り方をしてくれたりしました。学生さんとのコミュニケーションは、もう少し聞き役に回るべきだったなど反省もありますが、それも含めて今後につながる事例としていただけたらと思います。
白川:井久保さんと学生さんが出会い、プロジェクトを進めていく上で信頼関係ができ、関係が続く中で、次のフェーズが生まれたということですね。
宮原:ヤマラボの活動がプロジェクトテーマ型になったのは、メンバーの一人がプロジェクト型でやってみたらどうかとぽろっと言ったことがきっかけです。その一言に端を発して、じゃあどう実現しようかと、みんなで試行錯誤したことが新しいフェーズにつながりました。
白川:名古屋ダイヤモンドドルフィンズでは本学学生との関係の中で共創を続けてきたと思いますが、これまでどういったフェーズがあったのでしょうか?
園部:クラブとして名古屋のシンボルになるというビジョンに向かって取り組んでいるのは普遍的ですが、その中で社会の変化、環境の変化があり、学生が求めていること、大学が求めていること、私たちがもっているもの、それらを掛け合わせてどう進化させるかというのは都度のチャレンジになります。
白川:西村さんに聞いてみたいのですが、実践者の皆さんの話と基調講演の話でつながっている部分はありますか?本学の共創の可能性についてどう考えますか?
西村:どの取り組みもとても面白く、取り組みから何が生まれたかだけでなく、起こったことをどう認識するかだと思います。取り組む側は本来のビジョンに向かっているかもしれませんが、学生が時間を割いてやっているのは本来の学びとはちょっと違う寄り道のようなものです。寄り道することで豊かになるけれど、それを認識できないと活動がしんどくなってしまいます。共創から何かが生まれることも素晴らしいですが、生まれる手前で起こっていることを認識するようになると楽だろうと思います。そういう視点でみると、事例報告していただいた3者では同じことが起こっています。その起こっていることを認識する場がプラットフォームであり、一緒に受けて止めていく周りの関係性ができるといいのかなと思います。
白川:基調講演の中で対話が関係性をつくるということでしたが、対話の本質というのはなんなのでしょうか?
西村:対話は基本的にはトーンを揃えるものなんですが、結果起こることは自分との対話です。今はものすごい速さで回転し要求に応えていかないと不安になってしまう時代。みんな要求に応えることには慣れていますが、そうではなく立ち止まって対話をし、考える時間があるといいですね。生み出したものが一見何もないように見えても、立ち止まる時間があるのとないのとでは、その人の人生やその後の行動は大きく違います。
白川:大学の立場では新しいものを生み出すことを期待され求められますが、生み出すものに着目するとアウトプットを増やしていかなければいけない。アウトプットを増やすための共創になってしまうというジレンマはあります。
谷田:研究室でプロジェクトをするときに心がけているのは、時間をかけることです。すぐに結果を出すのではなく、時間をかけて取り組めるプロジェクトを受けるようにしています。その期間の中で学生が深く考えることが大事な気がしています。
白川:登壇者の皆様ありがとうございます。最後に今思っていること、伝えたいことを手元のホワイトボードに書いていただいてまとめとしたいと思います。
園部:「共創に成果を求めない。過程に生まれる価値に着目」
「生まれる手前で起こっていることを認識する」というお話しが刺さっているのですが、共創に成果を求めすぎてはだめだと。偶発性から生まれるもの、プロジェクトの過程にある価値に今後はいっそう着目していきます。
井久保:「前と違うこと言っててもええやん。ただし、変化を『確認(アウトプット)』しながら」
過去と違うことを言ってもいいなと。その変化を自分や周りに確認しながら受け入れていこうと思います。そして、起こったことを確認し、起こるかもしれないことは想像しながら希望をもって。立ち止まりつつ進み、どう共有するかを考えていきたいです。
宮原:「内省?振返り?仲間への尊敬?一緒に模索?やってみる」
内省というのはさらけ出すという意味です。まず自分のことを分からないといけないので行ったり来たりだと思いますが、内省し、振り返り、仲間をリスペクトし、一緒に模索し、やってみるという流れなのかなと思います。
谷田:「新結合」
「新結合」という言葉は知らなかったのですが、建築とか空間について考えるとき、新たな見立てをすることで新しいデザインをしようといつも考えています。空間だけでなくまちや社会も新たな見立てによって新しいものが生まれることが理論化されていて、心に残りました。
西村:「未来は余白の中から」
講演を終えてうまく喋れなかったと反省していたんですが(笑)、期待に応えようと無理に頑張るとうまくいかないので、ディスカッションでは余白をもってゆっくり喋ることにしました。やはり余白がないと、よいコミュニケーションは生まれないですね。
(パネルディスカッション登壇者)
西村勇哉氏/NPO法人ミラツク代表理事?株式会社エッセンス代表取締役
谷田真氏/名城大学理工学部建築学科准教授?博士(工学)?小さな仕掛け製作所主宰
園部祐大氏/名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 事業計画課長
宮原知沙氏/ヤマラボ 企画?運営事務局
井久保詩子氏/山添村「交流施設Soyel」戸締(とじまり)役?奈良県「奥大和コミュニティマネージャー育成プログラム」一期生
(司会進行)
白川陽一氏/名城大学社会連携センター 社会連携アドバイザー