特集高齢者と自動運転
理工学部 情報工学科
中野 倫明 教授
Tomoaki Nakano
名古屋大学大学院工学研究科電気電子?電気工学科第2および電子工学専攻修士課程修了。豊田中央研究所にてドライバモニタ(居眠りや脇見検知など)の研究開発に携わる。2004年より現職。専門はITS(運転支援、視界?視認性、運転行動)、ヒューマンインタフェース(人間工学、認知工学、高齢者支援、視聴覚情報処理)ほか。ヒューマンインタフェース学会、自動車技術会などに所属。
警察庁によれば、2016年時点での75歳以上の運転免許保有者数は513万人と、10年前の258万人から約2倍となっている。2021年の予想数は613万人、その後も増え続けると言われている。
高齢ドライバーの運転能力を客観的に評価し、危険を防ぐ。
認知症の早期発見への活用も
高齢ドライバーを対象に、運転能力レベルを評価するシステムを開発しています。75歳以上を対象にした調査で、半数以上は「若い時と同じ運転ができている」と答えていることからも分かるように、まず大切なのは、客観的な評価で自分の運転レベルを知ってもらうこと。将来的には、評価結果を踏まえた個人へのコーチングへと展開できればと考えています。
また、運転の傾向から認知症の予兆を見つける試みも始めています。認知症は、投薬などの対策によって症状の進行を遅らせることができるので、早期発見はとても重要です。認知症の症状は体調によっても変化するので、誰もが継続的に計測できるような仕組みをつくりたいですね。
全国的に高齢ドライバーの増加が課題となっていますが、移動手段が少ない地方では、車がなければどこにも出かけられないという深刻さがあります。完全自動運転の実現はかなり難しいのではと感じていますが、すでに実用化されている安全運転支援システムなどをうまく活用するのは、高齢ドライバー問題を解決する一助になると考えています。有識者会議でも、特定エリアや制限された時間帯(昼間のみ)等の運転を許可する「限定免許」という考えが検討されていますが、今後、運転能力が低下した場合、「一定レベル以上の安全性能が搭載された自動車であれば運転できる」というような、条件付きの免許が登場するかもしれません。
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研究室のシミュレーターを使った、高齢者被験者による実験風景。
他の車や人に対する運転行動(衝突や接近の程度など)から運転能力のレベルを評価する。同システムを活用し、認知症の予兆を発見する試みもスタートさせている。 - 運転レベルの評価に加え、運転意識(安全確認など)に関する行動を記録する。
- 持ち運べるシミュレーターを使った出張実験も行っている。
「自分自身で運転する」ことが、健康寿命の延伸につながる
運転の際、人は、無意識のうちに視覚機能、認知?判断能力、身体能力など、あらゆる能力を駆使しています。加齢によってそれらの機能が衰えると運転能力が低下してしまうわけですが、「運転」という行為そのものが機能の衰えを抑えているという側面があるのもまた事実です。筋肉と同様に、視覚機能、認知?判断能力、身体能力は、使わなければさらに低下してしまうため、実際、免許を返納した途端に認知症が進んだという例も少なくありません。自動運転をはじめ最新技術に頼りながらも高齢ドライバーをサポートすることが、世の中の健康寿命延伸につながると考えています。