特設サイト第108回 漢方処方解説(59)桂枝加朮附湯
今回ご紹介する処方は、桂枝加朮附湯(けいしかじゅつぶとう)です。
このコラムの読者であれば、桂枝湯の加減方であると直ぐにわかるのではないでしょうか。桂枝湯は、「傷寒論」の最初に出てくる処方として、文字通り「傷寒」に用いられることが多く、虚弱者の風邪の引き初めに用いられる処方です。この桂枝湯は様々な処方へと派生し、漢方ならではの面白さを見せてくれます。以前にもお話ししたと思うのですが、「傷寒論」では葛根を加えた桂枝加葛根湯、さらに麻黄を加味して葛根湯となることや芍薬を増量して桂枝加芍薬湯といった消化器系の不具合に応用できる処方へと転ずることなど、いろいろと変化していきます。今回ご紹介する桂枝加朮附湯はその中でも異色で、関節痛や神経痛に用いる処方です。
構成生薬から見ますと、桂皮、芍薬、甘草、生姜、大棗という桂枝湯おなじみの5生薬に、「傷寒論」では附子を加えた桂枝加附子湯があり、それに朮が加わったものが本処方です。附子は、キンポウゲ科トリカブトやハナトリカブト、オクトリカブトの塊根で、猛毒のアコニチン類を含みますが、生薬として用いるときには「修治」という処理(この場合は加圧加熱処理)を行って減毒化してあります。
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桂皮
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芍薬
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甘草
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生姜
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大棗
これが「修治ブシ」とよばれるものです。薬理作用は、強心作用や血管拡張作用、鎮痛、抗炎症作用などがあるとされますが、漢方的には「大熱薬」で身体を温め、新陳代謝の衰えたものを回復させるものとして使用されます。 朮としては蒼朮が用いられるようで、キク科ホソバオケラやシナオケラの根茎を基原とします。薬理作用としては利尿作用が有名ですが、漢方的には温めながら水の偏りを是正する利水薬として、尿利の減少や頻数、身体疼痛、胃内停水、浮腫などの改善に用いられています。
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修治ブシ
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蒼朮
本処方は、胃腸が弱く、体力もあまりない冷え症の方の関節痛や神経痛、しびれ感などに有用で、関節リウマチなどの関節炎から帯状疱疹の後に残る神経痛の緩和や腰痛などにも用いられています。漢方薬の「配合の妙」を感じる処方の一つです。
(2024年4月5日)