特設サイト第35回 漢方処方解説(12)釣藤散

今回取り上げる漢方処方は、釣藤散(ちょうとうさん)です。

釣藤散は、釣藤鈎(ちょうとうこう)、橘皮(きっぴ)、菊花(きっか)、防風(ぼうふう)、麦門冬(ばくもんどう)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、石膏(せっこう)の9種の生薬からなる処方で、中国の南宋時代(1127~1279年)に出版された医学書「本事方(類証普済本事方)」(1132年)に収載されています。

釣藤鈎

釣藤鈎

江戸末期から明治にかけて活躍された「日本漢方界の巨人」でもある浅田宗伯(1815~1894年)によると、「いわゆる癇性(かんしょう)の人で、気逆(きぎゃく)甚だしく、頭痛、眩暈し、或いは肩背強急(けんはいきょうきゅう)し、眼目赤く、心気鬱塞(しんきうっそく)する者を治す」とされます。激しやすく、「気」の巡りが身体の上から下へという正しい流れではなく、逆行して「上に、上に」と上ってしまうような、そんな気質の方の頭痛やめまい、肩や背中の強ばり、目の充血などに効くと言われています。

特徴的なのは頭痛で、中高年の方で早朝覚醒時に発生することが多く、夕方にかけて時間の経過とともに軽快するようなものが対象となります。また、この頭痛とともに、易怒性、のぼせや耳鳴り、不眠やめまいなどの神経症状が強くなることもあります。一方で、みぞおちがつかえたり、食欲不振に陥ったりと消化器症状が認められることもあります。

さらに興味深いことに、近年、いろいろな臨床試験や基礎研究により、認知症への応用が試みられてきた処方です。記憶障害や見当識障害など、いわゆる認知症の中核症状と呼ばれるものの改善や怒りっぽいとか、妄想や徘徊といった心理面や行動面での症状である周辺症状についても応用が試みられています。そうした臨床での活用を反映したのか、先日行われた第102回薬剤師国家試験(2017年2月25、26日実施)にも出題されておりました。

写真は、主薬である釣藤鈎です。アカネ科のカギカズラと呼ばれる常緑藤木の茎にできるかぎ状の「まがったとげ」を乾燥させたもので、ストレスをさばき、神経の興奮や沈滞を調節する作用があるとされています。植物のいろいろな部位を「くすり」として用いていますが、割合大きな植物の限られた、こんな小さな部位が利用できるなんて、先人達はどのようにして知ったのでしょう。とても不思議です。

(2017.3.22)

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