育て達人第190回 向井 利春
ベッド上触覚センサシートによる生体信号測定を研究 医療導入を目指す
理工学部情報工学科 向井 利春教授(センサ情報処理)
本学は2022年度、理工学部情報工学科を情報工学部に格上げし、次世代情報エンジニアの育成に邁進します。看板教員の一人が、触覚センサの研究をする向井利春教授です。11月24日に天白キャンパス研究実験棟Ⅲで開かれた学長記者懇談会では、研究の一端を記者に披露しました。
学長記者懇談会で発表した最新の研究についてあらためて解説してください。
記者の前で解説する向井教授
研究室で行っている研究の一つとして、ベッド上に敷いた静電容量型のシート状触覚センサを用いた睡眠モニタリングシステムを開発しています。この触覚センサは、私が前職(理化学研究所)に所属しているときに、住友理工と開発したもので、薄く柔らかいので、ベッド上に敷いてその上に寝ても邪魔になりません。
触覚センサで得られるのは圧力分布とその変動です。呼吸や心拍により微小ながら圧力が変化するので、呼吸、心拍が得られます。さらに、寝ている位置、寝姿勢、体動(寝返り)なども得られます。ただし、これらは重なって出力に現れるので、信号処理を行うことで分離します。
その効果と今後の進展は。
このような体勢でモニタリング
心拍数や呼吸数だけでなく、さらにその揺らぎまでみることで、睡眠段階や、体調、ストレスの有無などがわかると言われています。今は、心拍数やそのゆらぎを正確に得ることを中心に研究を行っています。今後は、触覚センサから得られるさまざまな指標を組み合わせることで、睡眠段階などのより複雑な判定を行えるようにしていきたいです。
医療現場への導入が目に浮かびますが、その見通しは。
センサ出力
触覚センサ自体は住友理工から販売されていて、介護の現場などで着座したときの圧力分布測定などで使われています。呼吸や心拍の情報は、信頼性やコストなどを考えなければいけないので、今のところはっきりしたことは言えません。
ROBEARというロボットを開発したそうですが。
ROBEAR(理化学研究所提供)
前職の理化学研究所に所属しているときに、移乗(ベッド-車椅子間などの乗り移り)補助を行う研究のために開発したロボットがROBEARです。ROBOTとBEAR(クマ)を合わせた造語です。人間と同程度のサイズで、人を持ち上げられるだけの力を出しながら、動きの柔らかさも実現できる点が特徴です。人間のような2本の腕を使って、移乗や起立の補助を行うことができます。
理化学研究所のプロジェクトが終了したので、ROBEARは名城大学に持ってきています。ただ、ROBEARの機能をフルに使うには、詳しい者が複数名で操作する必要があるので、名城大学では実際に人を持ち上げることはせず、起立補助に限定して研究を行っています。
理研時代の思い出を語ってください。
住友理工さんからのサポートで最初にロボットを作って、社長さんにプレゼンしたときが印象に残っています。発表会直前までなかなかバグが取れずに、皆で夜遅くまで残って、必死で作業しました。ギリギリでバグが取れてプレゼンがうまくいったのが、大変ながらも楽しい思い出として残っています。
大学ではどんなことを教えていますか。
担当している授業は、情報工学の世界、システム制御2、センサ工学、電磁気学1、2、情報工学実験3です。2022年度からは、情報工学部で、基礎ゼミナール1、2も担当します。
自分の専門に特に関わっているのが、センサ工学とシステム制御で、実世界とコンピュータの世界をつなぐ学問です。
指導の力点はどんなことですか。
学生には、自分で考えて、調べて、実行してほしいと思っています。その中で、研究することの楽しさを感じてくれれば良いと考えています。
情報工学部のPRをどうぞ。
4つのプログラムと2つのコースを組み合わせて、多様な学習を実現できるのが情報工学部の特徴です。コースは、総合コースと先進プロジェクトコースです。
先進プロジェクトコースはPBL(Project Based Learning、課題解決型学習)を取り入れたコースで、教員にとっても新しい試みなので準備が大変ですが、充実したものにするために今頑張っています。
座右の銘を色紙に書いてください。
印象に残っている言葉を色紙に書いた向井教授
座右の銘というほどのものは無いのですが、印象に残っている言葉として、SF作家のクラークの三法則を挙げます。その2番目に以下の言葉があります。
The only way of discovering the limits of the possible is to venture a little way past them into the impossible.
可能性の限界を知る唯一の方法は、その限界を少しだけ超えて不可能とされるところまで挑戦することである。
趣味、気分転換法などを教えてください。
最近は少しサボリ気味ですが、コロナ禍で自宅時間が長くなった時に天体観測を始めて、結構はまりました。天体観測もIT化が進んでいて、電子観望というのですが、CCD (Charge Coupled Device、電荷結合素子)カメラで天体を撮影して、画像処理できれいな映像を得るということができるようになっています。また、人工衛星の軌道を計算して、望遠鏡を電動で動かし、追跡するというようなこともできます。
また、ごく最近はVRヘッドセットのOculus Quest 2を購入して、毎晩のように遊んでいます。
向井 利春(むかい?としはる)
1967年、群馬県生まれ。1995年、東京大学大学院計数工学専攻修了。1995年、博士(工学)。1995年から2015年まで理化学研究所。2015年、名城大学理工学部情報工学科教授。著書に「生体情報センシングとヘルスケアへの最新応用」「アクチュエータの新材料、駆動制御、最新応用技術」「人と協働するロボット革命最前線」(全て、共著)ほか。IEEE、日本機械学会、日本ロボット学会に所属。