育て達人第161回 森 裕二
2018年度薬学会賞に輝いた薬学部の重鎮
薬学部薬学科 森 裕二教授(有機合成化学)
薬学部の森裕二教授が3月25日、公益社団法人日本薬学会から2018年度の薬学会賞を受けました。本学からは1987年度の井上昭二教授(当時)以来2人目の栄誉です。日本薬学会最高の賞で、歴代の受賞者には、2015年ノーベル生理学?医学賞受賞者の大村智さんら碩学(せきがく)たちが名を連ねています。
金沢市で開かれた授賞式の様子と感想から聞かせてください。
好きな言葉を色紙に書いた森裕二教授
日本薬学会の総会の場で表彰され、壇上で緊張しましたが、これまでの研究が認められた証しであり、臆せず式に臨めました。光栄でうれしかった。
研究者を志したきっかけはありますか。
岐阜薬科大学時代、好きだった有機化学の教授がアメリカ留学の時の話を楽しく語ってくれました。「研究者になれば海外へ行ける。世界を舞台にやれる。面白そう」と思うようになりました。大学院は京都大学に進み、修了後、本学講師に着任。1983~1985年、憧れの米国コロンビア大学に博士研究員で留学させてもらいました。
振り返って、研究生活に転機はありましたか。
ニューヨークのコロンビア大学には世界一流の研究者がたくさんいて、研究姿勢のエッセンスを学ぶことができました。驚いたのは、研究設備は名城大学のそれと変わらないのです。本学が老舗薬学部にふさわしい立派な研究設備をもっているのを知ると同時に、研究者の力で大学の位置づけも変わってくると思いました。「自分自身が頑張らないと話にならない」と痛感した次第です。
薬学会賞の功績は「有機合成の新手法の開発と生物活性海洋天然物の全合成」です。根気のいる研究ですが、ご自身の研究手法を語ってください。
30代半ばに、トップレベルの学術誌に論文を投稿したときにエディターからこう言われました。「研究手法は妥当で優れた結果が得られているが、概念的な進展性がない」と。目覚めました。以来、まったく新しいものを、その分野で今までにない新しい考え方で追求するように心がけています。改良型ではなく、創造型です。大学時代の恩師からは「決して米国等の碩学のコピー研究はするな」と言われました。いつも念頭に置いている言葉です。
気分転換はどうやっていますか。
日曜日は完全なオフにすることです。庭いじりなどをしています。ウイークデーはちょくちょくケーブルテレビで深夜映画を見ています。
学生にメッセージをください。
「自分の力はこんなものではない」という気概をいつも抱き、努力してください。自分を過大評価も過小評価もしないことです。可能性を信じて半歩でも前に踏み出してください。学生は卒業後、薬剤師として病院や調剤薬局、ドラッグストアに就職する人が87%を占めています。半面、卒業して大学院や企業に進む人は少ない。私としては、創薬関連の仕事に携わったりもしてほしい。全国的なブランド力を上げることにもつながります。
受験生に一言。
6年間という長い間学ばなければなりません。持久力が必要です。机上の知識だけを詰め込むのではなく、手足を積極的に動かして実験する技能も養わなければなりません。それだけでなく、患者さんとのコミュニケーション力も必要です。求められるものが多いことを心に留めて受験してください。
趣味、モットー、座右の銘など人となりを感じさせることを挙げてください。
自分はどんぶり勘定タイプの人間です。趣味はありませんが、去年から研究室紹介の動画作りにはまっています。映像だけでなく音楽にも凝りました。モットーは研究室のものと重なりますが、「Keep your mind open. Conceptual advance(心を開いて。概念的進展を)」です。「明るく、素直に、情熱を持って」という言葉も。座右の銘は「感動する心を忘れない」です。
この際言っておきたいことがあればどうぞ。
吉久光一学長に薬学会賞の盾を披露した森教授
学生に対してですが、「自分の奥底の気持ちを感じ取れるか」と問いかけています。自分の本意でやっているのか、人から頼まれて本意ではなくやっているのか。この感じ取る力を鍛えると、人生、一歩でもいい方向へ踏み出せると考えています。
森 裕二(もり ゆうじ)
岐阜市出身。1973年、岐阜薬科大学卒業。1978年、京都大学大学院修了後、本学に着任。1983~1985年、米国コロンビア大学博士研究員。1993年、助教授などを経て2000年から現職。専門は有機合成化学。薬学博士(京都大学)。大学院総合学術研究科教授も務める。1993年度(1993年3月)には「鎖状1,3-ポリオール合成法の開発と天然物構造解析への応用」の功績で薬学会奨励賞を受賞した。