育て達人第135回 細田 晃文
子ども向け科学実験教室を企画?実践
農学部生物環境科学科 細田 晃文 准教授(環境微生物学研究室)
科学の魅力を伝えるには小学生から
2015年12月、本学天白キャンパスで、赤﨑勇終身教授?特別栄誉教授と天野浩特別栄誉教授ノーベル物理学賞受賞記念事業の一環として、小学生対象の科学実験教室が開かれました。2026年を目標年とする戦略プラン「MS-26」の事業でもあります。4種類の実験を提供したのは、農学部生物環境科学科の4研究室。企画した細田准教授もレモン汁や微生物を使って微弱な電気を取り出す実験を指導しました。
8月に続いて2度目の開講。いずれも子どもたちが喜々として取り組んでいました。
子どもの理科離れが言われて久しいです。小学生の時から科学実験の楽しさに触れるのが時期的にいいのではないかと思いました。志望が固まってきた高校生にオープンキャンパスで教えるのでは遅いのです。将来、大学の選択にあたって理系へ進学することや名城大学を選んでくれるよう、ファンづくりも狙っています。実験を手伝ってくれる学生や院生にとっても、小学生にも分かるように教えることでコミュニケーション力が養われます。
12月の開講では、子どもたちに小さな白衣を着せる演出もありました。
小さい白衣を着て受講する小学生たち
自分の子どもを連れて愛知県岡崎市の分子科学研究所や基礎生物学研究所の施設開放に行った際、子どもが白衣を着て記念撮影できるようになっていました。体験を記憶に残すことも大事だと考えました。
準備は大変だったと思いますが、手応えは。
各教授や准教授には「研究室でやっている範囲内でいい」と言ってあり、準備はそんなに負担にならなかったのでは。家に帰ってもやれる実験というレベルにも配慮しました。子どもたちはもちろん、保護者の方々も楽しそうにやっていました。修正をかけて今夏にもやる予定です。学科から学部全体に拡大できるとテーマが増え、参加者も増やせるのではないでしょうか。
自身の研究は。
有機塩素系化合物や油分といった土壌?水質汚染物質の浄化処理で、微生物の力を利用する研究や、やはり微生物の力を活用した金属廃棄物や含油廃棄物の有用資源化の研究をしています。環境修復や燃料電池などのエネルギーづくりに結び付けることです。環境問題を解決するような微生物を環境中から探しています。
土壌の微生物から熱帯病の特効薬を開発し、2015年ノーベル生理学?医学賞を受けた大村智北里大学特別栄誉教授の業績を連想します。
微生物研究分野ではノーベル賞を出すのは難しいとまで言われていました。同じ微生物を研究対象にしている者として励みになります。
研究者人生で転機となったことは何ですか。
ペニシリンは偶然発見されたと授業で学生に話します。私も、修士課程1年の時、微生物を培養しているシャーレの中に、いつもと違う微生物がいるのに気づきました。酵素を出す微生物と、それをサポートする微生物がいて、両者が交流することで酵素がたくさん出ることを発見しました。学位論文にもなりました。ある種の成功体験です。以来、「この分野でやっていこうか」と方向性が定まり、研究が面白くなりました。2003年から2006年まで博士研究員(ポスドク)をした海洋バイオテクノロジー研究所(岩手県釜石市)もいろいろな国の、多分野の研究者と交流でき、刺激的でした。研究者として視野が広がりました。その時の経験が今に生きています。
自身が考える実験の要諦は。
失敗してもいいから何度もやることです。失敗にめげず、その原因をよく考え、突き止め、改善してまた実験する。あと一歩我慢できればという気持ちで頑張ることが大事です。最後は自分との戦いです。
学生に望むことは。
大学が「高校化している」と言われます。いろいろな選択肢があり、自分で考えて授業を取れるのに、高校の延長線みたいに学んでいるように見えます。授業や実験だけが大学生活ではないので、「学び」と「遊び」の切り替えを上手にできるようにしてほしい。言われたことだけをやるのではなく、自由な発想で行動した方が良い。
2016年の抱負と将来展望を聞かせてください。
実験装置(嫌気性細菌の培養用チャンバー)に向かう
将来の社会に役立つことをやりたい。そのための論文を一つでも発表したい。キーワードはエネルギーです。微生物の力を借りてエネルギーを作り出すことです。微生物が作り出すエネルギーは小さなものですが、微弱な電気でもたくさん集まると大きなエネルギーになるのと同じ考えです。在外研究にも行きたい。視野を広げ、今後の核になるような研究テーマを見つけたいと思います。
細田 晃文(ほそだ?あきふみ)
大阪府和泉市出身。九州大学農学部農芸化学科卒。同大学大学院博士課程修了。農学博士。日本学術振興会特別研究員(DC1)、株式会社海洋バイオテクノロジー研究所博士研究員を経て、2006年に名城大学農学部講師。助教を経て2010年准教授。International Society for Microbial Ecology、日本農芸化学会、日本微生物生態学会に所属。