育て達人第134回 宇佐美 初彦
ノーベル賞生んだ材料機能工学科にトライボロジーの伝統
理工学部 材料機能工学科 宇佐美 初彦 教授(表面改質材料学)
潤滑精度を極め「革新的燃焼技術」プロジェクトに挑む
2014年ノーベル物理学賞受賞の赤﨑勇終身教授が率いる発光ダイオード研究、やはりノーベル賞が期待される飯島澄男終身教授のカーボンナノチューブ研究。未来を切り拓く材料研究に取り組む理工学部材料機能工学科で、摩擦の科学とも言えるトライボロジー研究で機械材料の可能性に挑む宇佐美初彦教授に聞きました。
――自動車の燃費を向上させる国のプロジェクトに加わっていると聞きました。
内閣府が統括し、省庁横断で先端的な基礎研究を支援する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が単年度500億円の予算規模で2014年度からスタートしました。私が参加しているのは経済産業省(企業)、文部科学省(大学)が連携した「革新的燃焼技術」という研究開発プロジェクトです。「日の丸内燃機関が地球を救う」という旗をかかげ、自動車メーカー各社と全国の約70の研究室がスクラムを組んで、ドイツのベンツやBMWのエンジンに負けない燃費の優れた国産エンジンを開発しようという5年計画プロジェクトです。私は材料加工、潤滑、摩擦、摩耗、軸受設計などを扱うトライボロジーという分野から、名城大学を代表して参加しています。
――愛知県が大学と連携して推進中の「知の拠点あいち」重点研究プロジェクトでも、宇佐美研究室は鉄の微粒子を材料表面に打ちつけ加工(微粒子ピーニング)する装置を開発されました。燃費効率のよいエンジンとも結びつくのですか。
「知の拠点あいち」重点研究プロジェクで開発した微粒子ピーニング装置(左)
微粒子ピーニングによる加工技術の応用でも摩擦を下げることは可能ですが、さらにひと手間加えることで、とてつもなく滑る表面に仕上げることができました。深さがミクロン(1000分の1ミリ)レベルの凹部に、鉛筆の粉のような黒鉛を練り込む技術です。この技術により摩擦面の性能を飛躍的に高めることができるようになりました。ピストンをはじめ様々な部品に取り込むことでエンジンの燃費効率を画期的に高めることができます。
――トライボロジーの応用分野は幅広いわけですね。
そうです。小惑星探査機「はやぶさ」も太陽電池パネルを微弱電源で開かせる技術もトライボロジーがあったからこそ奇跡の帰還ができました。F1などのレーシングカーはエンジンからタイヤまでトライボロジー技術の粋を集めたものです。宇宙、交通機械だけではありません。人体のひじ、ひざの関節の動きなど医療の世界もそうですし、コンピューターのハードディス内部のナノレベルの空間でもトライボロジーが重要な役割を演じています。関連学会である日本トライボロジー学会には2000人以上の技術者、研究者が登録しています。東海地方はやはり自動車分野の研究者が中心です。私は現在、100人を超す会員がいる東海トライボロジー研究会の第9代会長ですが、歴代9人の会長には名城大学から3人、名古屋工業大学から3人、名古屋大学から2人、豊田工業大学から1人が就任しています。10月には名城大学で第100回記念研究会開催を予定していますが、実りある大会にしなければとプレッシャーを感じています。幸い完成したばかりの「共通講義東」が会場として使えそうで、内容を含めて充実した記念の研究会にしたいと思っています。
――1月30日に開かれた赤﨑勇終身教授と天野浩名古屋大学教授(元名城大学教授)のノーベル受賞を祝う記念祝典では天野教授夫妻にお祝いの言葉をかけていましたね。
ノーベル賞受賞記念祝典で天野教授夫妻にお祝いの言葉をかけた宇佐美教授(1月30日、名古屋観光ホテルで)
名城大学に18年おられた天野先生は同年代のうえ2001年度からは同じ材料機能工学科の同僚でした。材料機能工学科は、それまで電気電子工学科、機械工学科で研究されていた先生方の一部が集まって誕生しました。赤﨑先生や天野先生が率い、今は赤﨑先生の指導のもと上山智教授たちが引き継いでいる発光ダイオード研究、やはりノーベル賞が期待されている飯島澄男終身教授のカーボンナノチューブ研究、そして私たちのトライボロジー研究など未来を切り拓く材料研究に取り組む学科です。18年間名城大学におられた天野先生は、私たちにとっては雲の上まで行ってしまいましたが、何と言っても苦楽を共にしたかつての同僚。700人が詰めかけた名古屋観光ホテルに記念祝典では、ぜひお祝いの声をかけたくて順番待ちの行列に加わりました。
――学生たちとはどんな姿勢で向き合っていますか。
約束を守らないとか、実験設備をきちんと使わないとか、基本的なルールを守らない等といった安全にかかわる事柄ではしっかり叱ります。叱られて、へこんでしまう学生たちもいますが、ここの研究室に入ってくる学生たちは、覚悟を決めて入ってくるようです。学生たちとはよく一緒に酒を飲んだりします。鍋を囲んで学生たちと飲んでいると、研究室だけは分からなかった人間観察もできます。怒られているうちはまだいいんです。私も過去にどれだけ失敗したことか。名古屋工業大学での大学院生時代は、研究室の超精密な部品を壊して先生たちを凍りつかせてしまったことがあります。そんな私でも先生方には我慢強く育てていただきました。そうした恩師たちに報いなければという思いで、学生たちと接しています。学生の皆さんは失敗にめげず前を向いて頑張り抜いてほしいと思います。
「失敗にめげず前向きに頑張り抜いてほしい」と語る宇佐美教授
宇佐美 初彦(うさみ?はつひこ)
名古屋市出身。名城大学理工学部機械工学科卒、名古屋工業大学大学院工学研究科生産システム専攻博士後期課程修了。工学博士。一般社団法人ファインセラミックスセンター(名古屋市)勤務を経て1995年に名城大学講師、助教授を経て教授。日本機械学会英文論文誌Chief Editor。東海トライボロジー研究会会長。