育て達人第110回 川澄 未来子

人間の感性をモノづくりに生かしたい   新情報工学科は理系女子受験生を大歓迎です

理工学部 川澄 未来子 准教授(感性工学)

 理工学部情報工学科では2013年度から新カリキュラムに移行、「強み」を持った情報エンジニア養成を目指し「4プログラム制」が導入されます。同学科初の女性教員として着任した川澄未来子准教授は「情報メディア」領域の研究指導を担当。「モノづくりには人間の多様な感性が必要」と、理系女子受験生にも熱いエールを送っています。

――情報工学科に導入される4プログラムは「情報デバイス」「情報処理」「情報メディア」「情報通信」。川澄先生も担当される「情報メディア」のキャッチコピーは「人と情報をやさしく豊かに繋ぐ!」です。女子受験生歓迎のメッセージも込められているのですか。

「感性に響くモノづくりをぜひ一緒にしましょう」と呼びかける川澄准教授

「感性に響くモノづくりをぜひ一緒にしましょう」と呼びかける川澄准教授

 そうです。モノづくりの現場は、ともすれば油臭い男の世界とイメージされがちでした。しかし、モノを使う半分は女性であり、今や男性の発想だけでは魅力的なモノが生まれにくい時代です。モノづくりに多様な人たちが関わることが重要で、女性ならではの視点を持ち込めば男性も刺激を受けます。私の専門である感性工学や色彩工学の分野は、女性ならではの着眼や考え方が生きる領域でもあります

――「カーナビにおける女性向け地図表示方法の検討」「自動車フロントマスクの表情と年齢印象の評価研究」などの論文を書かれていますね。

 人間の感覚をモノづくりに生かす立場からの研究です。カーナビの女性向け表示の研究は、男性に比べ女性は北が上にある地図を読むのが苦手な傾向にあるため、東西南北や距離で誘導するより、左右やランドマークを使って案内した方が効果的である、という内容です。車のフロントマスクに関する研究は、車の正面デザインをみて「笑っているみたい」とか「爬虫類のようだ」と思わずつぶやくことがあるように、デザインは必ずしもデザイナーが使う専門用語だけではなく、一般の人が日常的に使う言葉でも表現できることから、笑顔度や年齢度のような尺度を使ってイメージの数値化を試みた研究です。この方法で一般の人に世界中の車を評価してもらうと、ふけ顔が目立つメーカーや、笑顔度が高く童顔の多いメーカーが明らかになるなど、新たなイメージ分析の切り口が見えてきました。

――人間の感覚や感性を調べた結果をソフトウェア含めたモノづくりに繋げていくことを学べるのも「情報メディア」の分野なわけですね。

 その通りです。現在、私の研究室では玄関のインターホンに画面をつけ、室内の人のメッセージをアバター(分身キャラクター)や文字を使って伝えることができるモデルの研究にも取り組んでいます。通話内容を文字で表示すると、玄関近くの騒音が大きい場面や、音声が聞き取りにくい高齢の方にはとても役立ちます。「人と情報をやさしく豊かに繋ぐ!」の一例ですね。メーカーとの共同研究なので、学生たちはメーカーの社員の方々と一緒に学童保育所やシルバーセンターに出向いて実験しています。海外にもマーケットを持つメーカーですので、外国人の感性も調査しています。

――理工学部は教員も学生も伝統的に男性が多い学部です。情報工学科も女子学生はまだ少ないのですか。

 私は2011年4月に名城大学に着任しましたが、情報工学科だけでなく、電気電子、機械、交通機械工学科も含めた4学科でも初めての女性教員でした。情報工学科の女子学生比率もまだ5~10%にとどまっています。ただ、理工学部では女子学生を増やそうと、2010年に女子学生キャリアアップセミナーを立ち上げ、理系志望の女子高校生たちへのPRに力を入れ始めており、オープンキャンパスでのセミナー参加者も増えつつあります。2013年度スタートの新カリキュラムには、女子学生が興味をもちそうな内容も含まれていますので大いに期待しています。

――津田塾大学卒業後、12年間勤務した豊田中央研究所ではどんな研究をされたのですか。

 豊田中央研究所はトヨタグループが出資する総合研究所です。もともと名古屋が地元で、車という工業製品に興味があったこともありUターン就職しました。最初はニューラルネットワークという脳の機能を模した情報処理の仕組みについて研究し、その後は視覚?色覚系の感性情報処理の研究に携わりました。ヨーロッパの高級車に負けない質感を持つ塗装材や内装材の研究などに関わりました。当時、東京工業大学の内川惠二先生(色覚工学)にアドバイスをいただきながら研究を進め、後に博士論文としてまとめました。

――どんな車に乗っていますか。

 ランチアというイタリアの車をマニュアルで運転しています。最初のマイカーは国産車でしたが、その後はプジョー、メルセデスなどヨーロッパの車を乗り継いでいます。車の模型をクレイ(粘土)で作るアメリカとは異なり、ヨーロッパでは木や発泡スチロールを削って模型を作る文化があります。削る作業によって形を起こすので、失敗できない緊張を強いられる「引き算」のデザインです。ミケランジェロが四角い大理石から埋もれている彫像を徐々に削って取り出していく文化が工業製品のデザインプロセスにも根付いています。足して修正できる粘土と違って、研ぎ澄まされた美しいラインが生まれます。

4年生と院生の計10人の川澄研究室は外部との合同研究も活発

4年生と院生の計10人の川澄研究室は外部との合同研究も活発

川澄 未来子(かわすみ?みきこ)

名古屋市出身。津田塾大学学芸学部数学科卒。東京工業大学大学院総合理工学研究科物理情報システム専攻博士後期課程修了。博士(工学)。豊田中央研究所に12年間勤務し、愛知淑徳大学で准教授、教授などを歴任。2011年4月から名城大学理工学准教授。学内では女子学生キャリアアップセミナー実施委員として女子受験生に理系の魅力を発信中。

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