育て達人第045回 大津 史子
外科医のメスに匹敵する医薬品情報力 自分自身の情報ネットワークを
薬学部 大津 史子 准教授(医薬品情報学)
薬学部では教育改革の一環として、グループ単位での調査やディスカッションを中心とした授業形態であるPBL(Problem-Based Learning)という授業に力を入れています。「わからないところが次から次に見えてくるようになった」など学生たちからも好評です。推進役の1人である大津史子准教授にお話を聞きました。
――PBLを取り入れているのはどんな授業ですか。
「情報もデータベース化することで宝の山に変わります」と語る大津准教授
今年度から、4年生が前期に履修している「薬物治療学」という科目に取り入れています。火曜日から金曜日までが一つの12単位の科目です。様々な疾患の症例を題材として、どのような薬物治療が最も良いのか、もし副作用が起こっているとしたらどの様に対処すべきかなど、8人ずつのグループに分かれ、調査し、ディスカッションを重ね、発表します。PBL自体はもともと医学部での教育改革として始まったプログラムで、薬学部の第三者評価でもPBL形式の授業を導入することが決められています。本学薬学部でもすでに1年生で導入が始まっていましたが、「薬物治療学」ではさらに進めて、種々のITでの支援システムを導入し、薬学型のPBLを確立しました。
――学生たちの反響はどうですか。
ものすごくあります。「やればやるほど、自分がわからない所がわかり、わかればわかるほどさらに学びたくなった」など、教員としてはうれしい反響がたくさんありました。「薬物治療学」という、実際に患者さんを目の前にしたとき、薬剤師としてどうすべきという科目で、PBLを効果的に取り入れることができたのは、学生たちが実際に病床で患者さんたちと接する臨床薬学を日本で最も早くから実践してきた名城大学薬学部だからこそだと思います。
――薬の副作用についてデータベース化に取り組んでいると聞きましたが、何年くらい続けているのですか。
20年以上前からです。薬の副作用というのは元々、100人に1人とか1000人に1人しか起こりません。ものすごく重大な副作用ですと1万人に1人しか起こらないようなケースもありますし、医師の一生の中でも1人に出会うか出会わないかの事例もあります。したがって、どのような患者背景や、どんな薬で起きやすいかはなかなか研究対象にはなりません。しかし、副作用についての論文をデータベース化すれば、そこには多数の症例が蓄積されることになり、副作用のリスクファクタや起因薬剤の特徴などが見えてきます。つまり、データベースはまさに宝の山になると考えました。これまでに6万件近い症例を集めましたが、データベース化された医薬品情報を駆使すれば、臨床薬剤師が根拠を持って、医師に説明し、違う薬に代えてもらうなど、患者さんにとってよりよい医療ができます。
――医療の分野で薬剤師が果たす役割が予想以上に大きいことが分かりました。医薬品情報の大切さを痛感するようになったきっかけがあったのでしょうか。
私は薬学部を卒業してある国立大学の医学部に技官として就職しました。仕事をしていて、医師の薬に関する知識は限られており、もう少し薬剤師の知識が生かせたらと痛感しました。また、薬学専攻科で臨床現場に常駐していた経験から、医師はメスで患者さんを治すことができますが、薬剤師なら医薬品情報の力で患者さんを治すこともできると実感しました。そういうことをぜひ薬剤師となる学生たちに教えたいと思いました。
――地域の女性薬剤師さんたちと勉強会もされているそうですが。
薬の世界は日進月歩です。薬学部を出て大学病院とかに勤めていれば新しい情報に接する機会もありますが、特に個人薬局などで働いているとなかなかそうしたチャンスがありません。日ごろ、新しい情報が入りにくい中で、勉強したいという薬剤師さんたち約20人に月1回、八事キャンパスに集まってもらっています。少しでも気楽に学んでもらえるよう進め方も工夫はしていますが、昨年は、学会発表にも挑戦してもらいました。
――学生たちへのメッセージをお願いします。
私は女子大出身なので、名城大学に来てとても活気があると感じました。ただ、年々、大人しくなってきているというか、型にはまった学生が多くなっているような気がします。学生のみなさんにはぜひ、この分野なら負けないぞというような得意分野をつくってほしいと思います。このことなら私に任せて、このことなら人に教えられる、その自信は世の中に出てからとても役立ちます。究極の情報源は「人」といいます。知っている人を何人知っているか。ぜひ、そんな情報のネットワークをつくってほしいと思います。
大津 史子(おおつ?ふみこ)
京都府出身。神戸女子薬科大学(現在の神戸薬科大学)卒。名城大学薬学専攻科修了。薬学博士。助手、助教を経て2008年4月から現職。専門は医薬品情報学で、著書に「患者の訴え?症状からわかる薬の副作用」などがある。日本薬剤師会DI(Drug Information)委員会委員長。