育て達人第025回 三浦 彩子

地下鉄通路に木の葉のシルエットを演出   与えられた役割を理解し、前向きに、柔軟に

理工学部 三浦 彩子 助教(建築史)

 大学祭が行われた11月1日、地下鉄塩釜口駅の通路壁面に、行き交う利用者たちの“分身”が次々に映し出されました。分身は、木の葉で形どられた緑のシルエット。「マイカーよりも地下鉄を」と、環境にやさしい地下鉄の利用を呼びかける名古屋市交通局の依頼に応じ、学生たちと企画した理工学部の三浦彩子助教にお話を聞きました。

――木の葉シルエットを演出した狙いを教えて下さい。

「その時々で自分を磨くことが大切」と語る三浦助教

「その時々で自分を磨くことが大切」と語る三浦助教

 投影された木の葉は、1枚ずつが人間の動作に反応するようにプログラムが組まれています。通路壁面に駅周辺で撮影された草花や風景写真を飾り、目で追っていくうちに投影ポイントに誘導されていきます。反対側の壁に小さなWebカメラが仕掛けられており、映し出された自分の分身に、驚かれた方も多いと思います。地下鉄通路は公共スペース。普段は自分とは関係ないと思っている方がほとんどです。公共空間と市民をつなぎ合わせ、環境問題として考える一つのきっかけなればと思い企画しました。

――今年7月にはスペインで開催中のサラゴサ国際博覧会の市民参加パビリオンでも、三浦研究室の皆さんが「水の幻想スクリーン」を演出し、話題になりました。

 サラゴサ博のテーマは「水と持続可能な開発」。私たちの研究室が紹介した美濃和紙を使った幻想スクリーンは、日本では最小限の建築空間とも言える2畳の茶室に見たてたスペースで演出しました。中に入った人間の動きに合わせ、水滴や水泡をイメージした青い映像がスクリーンに浮かび上がり、「ぽちょん」という水の音とともに幻想的な空間を浮かび上がらせます。期間中、私と学生4人が会場で説明にあたりましたが、現地の人はオーバーアクションで、手を盛んに動かし、映像の変化を楽しんでいたようです。

――地下鉄、サラゴサ博での演出での共通点はなんでしょう。

 ともに、人間の身体感覚を視覚で表現しようという狙いがあります。私たちの研究室では、禅思想が与えた建築と庭園の関係ついての研究を続けており、1対1で向き合う自分を投影してみるという発想があります。両イベントとも外部からの依頼に基づく企画で、学生たちが中心になって取り組みました。仕事を完成させるまでには、外部の組織の方々と、柔軟にコミュニケーションをとって行かないと前に進んでいきません。描いた構想がなかなか思うようには行かない現実と向き合いながら、調整を重ねていくわけです。調整しながら製作を進めていくプロセスそのものが楽しさでもあります。学生たちが社会に出る前の柔軟体操として、こうした機会を利用してくれれば幸いです。

――専門は建築史ということですが、「建築<みどころ>博物館ガイドブック~課外授業へようこそ」(彰国社)という本も出されていますね。

 建築学科に入学したのは、モノを作りたいという思いがあったからです。勉強していくうちに、歴史的な建造物の中から自分の設計思想を固めていきたいと考えるようになりました。庭園史学、仏教史学、美術史学、都市計画学などの分野にかかわりながら研究に取り組んでいます。庭園にその思想が表われている禅宗の寺院には学生時代から調査で足を運んでいます。「建築<みどころ>博物館ガイドブック~課外授業へようこそ」は、ちょっとした“旅の友”にも便利です。専門分野と一般の人たちとの懸け橋にもなると思いまとめましたが、おかげ様でそれなりに売れています。

――大学院で学ばれたあと、国立科学博物館に勤務されていますが、博物館での仕事の体験が、大学で教える立場になってからも、外部委託イベントの企画などにかなり生かされているのでは。

 東京の国立科学博物館には5年勤務しました。博物館で静かな研究生活で時間が過ぎていくのかと思っていましたが、外に目を向ける仕事が中心でした。所属した研究室の室長が大変元気に仕事をされる方で、産業遺産とか土木?建築遺産の調査で古い工場やトンネルの実測に出向くなど全国を回りました。生涯学習でのシンポジウム開催や、企画展のための講師やスポンサー探しも博物館の大切な仕事です。おかげで、理工学部主催の市民公開講座でのテーマ選びや講師探しなどでは経験が役立っています。

――名城大学で後輩を教える立場になりましたが、ご自身の学生時代と比べて、今の学生はどのように映りますか。

 柔軟性があるような気がします。見ていると、違う世代の人たちともうまく関係を築いていきます。誰でもそうですが、面白さに気づいたときに、飛躍的に、勉強しようという気持ちになると思います。ゼミの学生たちには、このテーマをやりなさいということは一切言いません。私がするのは、禅宗のお坊さんやアメリカ人の建築家を招いたりして、学生たちが面白さに気づくきっかけづくりです。学生たちは自然にスイッチが入るようで、禅に興味を持ち、本を探してきたり、茶室について調べています。

―― 学生たちが「達人」として育つ秘訣をアドバイスして下さい。

 私もまだ育てられている立場なので言いにくいですが、どんな環境になっても、そこで与えられた役割を理解して、仕事ができるよう、柔軟であってほしいと思います。就職しても与えられた仕事を受身的にこなすだけでは、いざという時に応用が利きません。その時々に自分を磨いて、新しい環境でも変化に対応できる力を備えることが必要です。

塩釜口駅に登場した木の葉のシルエット

塩釜口駅に登場した木の葉のシルエット

サラゴサ国際博覧会で人気を呼んだ「水の幻想スクリーン」

サラゴサ国際博覧会で人気を呼んだ「水の幻想スクリーン」

三浦 彩子(みうら?あやこ)

名古屋市生まれ。名城大学理工学部建築学科卒、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。国立科学博物館理工学研究部技術補佐員を経て2003年名城大学理工学部に。講師を経て現職。専門は禅宗庭園史?日本建築史。

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