育て達人第009回 武田 直仁
7月19日に高校生体験実験講習会 「薬学部の老舗」ならではの人的資源
薬学部 薬学教育開発センター 武田 直仁 准教授
薬学部では7月19日に八事キャンパスで開く、「高校生体験実験講習会」の参加者を募集中です。講習会運営をマネジメントする薬学教育開発センターの武田直仁准教授に、講習会の意義や、6年制となった薬学部教育の取り組みについて語っていただきました。
――今年度の高校生体験実験講習会では「漢方薬を作ってみよう」(葛根湯と紫雲膏の調製)「タバコの煙が遺伝子を傷つける?!」(タバコ煙成分によるDNA損傷の検出)の二つ実験が用意されています。講習会は何年前から行なわれているのですか。
高校生体験実験講習会への参加を呼びかける武田准教授
開学75周年を迎える前年の2000年度からスタートしています。薬学部への進学希望者に、薬学部で学ぶ内容を理解してもらい、知的好奇心を高めてもらおうという狙いでした。
――高校生体験実験講習会の他に、特定の高校の生徒たちを対象にした薬学講座、高校教員向けのプログラムにも取り組んでいますね。
高校生体験実験講習会にはこれまでに70校近くから生徒たちが参加していますが、個別の高校単位での実施要請もあり、三重県の伊勢高校、名古屋市の東邦高校と向陽高校と連携した薬学講座も開いています。伊勢、東邦高校は文部科学省が進めるSPP(サイエンスパートナーシッププロジェクト)の一環、向陽高校もSSH(スーパーサイエンスハイスクール)としての取り組みの一環で、今年も7~9月に実施します。食品の安全性をテーマに、サンプルに一定量の農薬を混ぜて、残留濃度を調べるなど、実験内容は様々です。実験は薬学部の多くの先生たちに担当してもらっています。一方、高校の理科教員向けの講習は、愛知県総合教育センターからの依頼で実施しています。5年目、10年目研修の一環ですが、「名城大学の実験は面白い」という印象が高校生たちに広まってくれる期待もあって引き受けています。
――全入時代を迎えた大学では、高校生活から大学生活へのスムーズな移行ができない学生が増えていると言われています。
初年次教育はどこの大学でも重要課題となっています。大学と高校はもっと連携する必要があると思います。本学薬学部では、多くの教員たちが高校生体験実験講習会やSPPにかかわることで、最近の高校生たちが、授業や補習に時間を取られ、実験の面白さが体験しにくい状況や、高校生たちがどんなことを考えているかなど高校現場を知るチャンスになっています。
――薬学部の6年制で教育内容はどう変わったのでしょう。
6年制では、高度化した医療現場に対応できる薬剤師を育てるために、5、6年生は時間をかけて病院研修をすることになります。さらに、日進月歩の医療現場ですから、いくら薬の知識を暗記しても卒業する時にはもっと新しい薬が出てきて単に覚えただけの知識は陳腐化してしまいます。自分で問題を見つけ、自分で解決する力や、コミュニケーション力も大切です。問題解決力を高める教育に重点を置くととともに、2年次からの専門実習にスムーズに入っていけるよう、1年次には、高校生体験実験講習会で得た経験を生かした、「入門実験」の科目も導入しました。
――薬学部の新設ラッシュをどう受け止めていますか。
もちろん学生獲得の競争も一段と厳しくなってきています。高校生体験実験講習会でも、付き添いで参加する親たちが増えました。6年制になり、親の経済的負担も増しており、大学選びには、より慎重にならざるを得ないのだと思います。国家試験の合格率も大学への評価としてさらに大きく影響してくると思います。しかし、大切なのは6年間、学生たちにどんな充実した教育を提供するかです。国家試験対策だけに追われる大学にはなりたくありません。薬学教育開発センターでは、積極的に新しい教育システムの開発に取り組んでいきたいと思っています。
――OBの立場から、母校をどう見ていますか。
愛知県では病院の薬局長、保健所幹部などの卒業生たちがさらに増えており、活躍が目立ちます。「学生がまじめで礼儀正しい」といった評価もたくさんいただいていますが、私は最近、高校生体験実験講習会を通じ新しい発見をしました。高校生たちは、名城大を「薬学部の老舗」として見ている点です。30数年前に学生時代をすごして以来、ずっと大学にいながら、自分では「老舗」であるという意識は全くありませんでした。東海地区でも新たに私立3大学に薬学部が開設されているのですから、確かに老舗になったのでしょう。考えてみれば、高校生たちに体験実験の場を提供できるのも、人的資源、物的資源に恵まれた老舗学部だからこそだと思います。
――薬学部で学んでいる学生たちに、メッセージをお願いします。
学業にまい進していただきたいと思いますが、同じくらいのエネルギーをクラブ?サークル活動にも注力してほしいと考えています。大学は人格形成の場でもあり、思春期から青年期にあたる大学での数年間は、多感で知識の吸収に貪欲になれる、人生のうちで最も輝かしい時期にあたるからです。社会に出ても「学び続ける」ことが大事です。社会は皆さんのそのようなコンピテンシー(能力や実力)を求めているのです。
武田 直仁(たけだ?なおひと)
名古屋市中区出身。名城大学薬学部卒、同大大学院薬学研究科修士課程修了。薬学博士。 専門は薬剤学。初年次教育分野では「高等学校理科教員から見た高大連携への認識と現状に関する意識調査」「自習学習を促進させるeラーニングシステムの実践に向けて」などの論文も多い。薬学部では体験実験企画委員長。53歳。